INTERVIEW
S!N
2016.06.16UPDATE
2016年06月号掲載
Interviewer:沖 さやこ
-S!Nさんが動画サイトに投稿を始めたきっかけとは?
ネット・サーフィンをしているとき、YouTubeにアップされた曲を聴いていて。そしたら同じタイトルの関連動画がいくつも出てきて、全部違う人が歌っていたんです。"誰が本物なんだ!?"と思って調べて、ボーカロイドとニコニコ動画の"歌ってみた"という文化を知りました。その当時はバンドでヴォーカルをしていて、パソコンとマイクとインターフェースも持っていたから"誰でも参加できるんだ。面白いものがあるんだな。じゃあ僕もやってみよう!"という感じで始めたのが2010年ごろですね。
-どんな反応がありましたか?
最初はまったく反応がなくて。どれくらいの人が動画をアップしていて、どれだけの人が見ているかという全体像も把握してなかったんですけど......"こんなに見てもらえないものか!"と悔しくて。見てくれる人が増えるようになったのはTwitterがきっかけですね。"ちょっと変なツイートをするキャラクター"ができて、それからフォロワーが増えていきました。自主制作盤のアルバム『SNiSN』をリリースした2014年からワンマン・ライヴをするようになると、"Twitterの人"にプラスして"ライヴの人"というイメージがつきました。だから今も、同じ("歌ってみた"の)界隈からメジャー・デビューした方々に比べると動画の再生数は全然伸びている方ではないんです。"Twitterで変なことを言ってるS!Nは実在してたんだ"みたいなギャップがウケているのかなと思います。
-S!Nとしてステージに立ってみて、いかがでしたか?
バンドをやっていた時代は路上で手売りをしていたので、ライヴのお客さんには顔見知りしかいなかったんですよね。だから全然顔を知らない人がたくさん集まってくれたのは不思議な感覚でした。当たり前のことなんですけど、ネット上のコメントやTwitterのリプライをくれた方々が本当に実在することに衝撃を受けました。ネット上で無料で見られるものに対してお金を払ってくれる人がこんなにいるんだなと。
-今のS!Nさんにとってライヴはどういうもの?
自己表現の場であり、コミュニケーションの場だと思います。あとは......ライヴに来たくても来れない人もいるし、ライヴに来てる人も仕事してお金と時間を費やしてライヴに来てくれるわけだから、ラクに来れてるのではないと思うんですよね。時間やお金を費やして僕のライヴに来てくれる――S!Nに対する期待感を客観的に感じられる場所かな。自分が届けたいというよりは、お客さんからいただくような。
-2016年4月3日~6月25日まで行われている全国ツアー"S!N LIVE TOUR 2016『信仰心』"も順調でしょうか。
ゴールデン・ウィークは7日間で7公演だったので、休みがなくてしんどかったですけど(笑)、でもめちゃくちゃ楽しいです。......しんどいときは何も考えられないからいいなと思うんですよね。"このタイミングで右手を挙げよう"みたいな打算的なものではなく、勝手に身体から出てくるものがそのまま出る――それがかっこいいんじゃないかなという考えがあって。だから"しんどい方が楽しいな"という感じですね。バンドさんもしんどい思いをさせたいです(笑)。騒いでくれるお客さんが多いのでお客さんにもしんどい思いをさせたいし、髪の毛をぐちゃぐちゃにさせたいし、メイクもボロクソにしたい(笑)。
-身体で表すコミュニケーションが大事だと。
突っ立って聴いてるだけなら動画やCDでいいと思うんです。CDは補正もミックスもされてるしライヴよりもきれいな仕上がりになっていると思うんですけど、生の雰囲気を感じてほしいし、お客さんが感じてくれた結果が僕に返ってくる。お客さんの雰囲気って、日によって違うので面白いですね。ライヴはずっとやっていきたいと思います。
-メジャー・デビューのお話があったのはいつごろでしょう?
去年の秋以降にお話をいただいて。"メジャーなんて大人が騙してるんじゃないの?"と思って"あぁ、そうなんですか"くらいの軽い感じでふわふわ話を聞いていたら現実でした(笑)。ちゃんと実感できたのは今年の3月くらいですね。メジャーがどうとかあんまり気にしてなくて。こうやって激ロックさんにインタビューしてもらえるのはメジャーでリリースが決まったからなので、関わる人が増えるとは思うんですけど......僕の活動は今までもこれからも何も変わらなくて。ただ、"歌を歌ってライヴをする"だけです。
-では、S!Nさんは自己表現ができれば活動の場は問わないと?
そうですね。もちろんたくさんの人に観てもらえた方が嬉しいという気持ちはあるんですけど、自分が認められる場があればメジャーでもインディーズでも、音楽でも舞台でもドラマでもモデルでもコミュニケーションが取れると思うので、活動の場にあまりこだわりはないですね。
-メジャー・デビュー・シングル曲「Salvation」(Track.1)とカップリングの「Mes」(Track.2)はTsugeさん(ex-LIL)が作曲を担当しています。
いくつかメジャー・デビュー・シングルの候補曲があって、その中から"この曲とこの曲がいいと思います"と選んだものがどちらも偶然Tsugeさんの曲だったんです。聴いたときに"いろいろな要素を吸収してる!"と思ったんですよね。ひと言で言い表しにくい感じが面白いかな......と感じて。何回も聴いてほしいし、僕自身も自分が何をしていくべきかまだ模索している途中でもあるので、"こういう曲だ"と簡単に説明できる曲は面白くないなと思ったんですよね。Tsugeさんの曲は多彩な表現力がある。変な音がいっぱい鳴っているのがすごくかっこよくて(笑)。
-S!Nさんの世界観と通ずるものがあったのかもしれませんね。
そうですね......僕は変なので(笑)。
-(笑)やはりオリジナル曲の方が自分の世界を出しやすいですか?
どうなんでしょうね。好きなアーティストさんの曲をカラオケで歌ったりするじゃないですか。それと同じで"歌ってみた"も自分が好きな曲を歌っているので差はあまりないんです。"歌ってみた"もオリジナルもライヴで盛り上がるんですけど、自分の曲で盛り上がってくれると、自分で作っているぶん嬉しさがありますね。......でもそれくらいの違いです。これから"歌ってみた"をやらないわけではないし、Tsugeさんがもしボーカロイドのクリエイターだったら「Salvation」も「Mes」も"歌ってみた"になると思うし(笑)。メジャー、インディーズ、ニコニコ動画と分けられているけれど、僕個人としては自分の活動において違いを感じていないんです。
-今回の楽曲制作はTsugeさんの曲を選んだあと、S!NさんとKonnie Aokiさんの作詞作業が始まったのでしょうか?
メジャー・デビュー・シングルはたくさんの人たちに"初めまして"とご挨拶する1枚になると思うので、"こういうテーマでS!Nを見せていきたい"、"語感がいい単語を使ってもらいたい"とKonnieさんに伝えて英語で歌詞を書いてもらいました。それで上がってきたものに対して、"ここの言い回しをこうしたい"とオーダーをする、という流れで完成したものです。中高生が勉強していれば読めるレベルの英語詞で、生活に根差した単語をチョイスしてくれてありがたいなと。
-なぜ英語詞に?
まず何よりせっかくメジャー・シーンに出るんだったら、海の向こう側まで行ってみたいなという想いがあって。今回のツアーで香港と上海に行ったんですけど、もっといろんなところに行きたいですね。その場合、英語の方が聴いてもらえる母数が多いのかもしれないし、発音がどんなに変でも聞こえはするだろうと思って今回英語詞に挑戦しました。とはいえ、それは挑戦のひとつでしかないので、自分で作詞作曲した3曲目は日本語詞です。