FEATURE
METALLICA
2023.04.14UPDATE
2023年04月号掲載
Writer : 菅谷 透
自らのルーツやこれまでのキャリアを見つめ直し、再構築されたMETALLICAサウンド
METALLICAの6年半ぶり、12枚目となるニュー・アルバム『72 Seasons』が4月14日にリリースされた。第1弾シングルとして発表された「Lux Æterna」をはじめとして、強力な先行楽曲が次々と公開され、期待とともにアルバムの全貌を心待ちにしているファンも多いに違いない。本稿では、そんな注目の最新作について紹介していきたい。
1981年に結成されたMETALLICAは、40年以上に及ぶキャリアの中で絶大なる成功を収め、メタルというジャンルだけのみならずロック・シーンや、さらには音楽を超えた幅広いカルチャーに影響を与えてきた。1986年の3rdアルバム『Master Of Puppets』は、米Rolling Stone誌が発表した"全時代を通じて最高のメタル・アルバム"2位を記録した重要作だが、2022年には表題曲がNetflixで配信された人気ドラマ"ストレンジャー・シングス 未知の世界"シーズン4にて印象的に使用され、リヴァイヴァル・ヒットを記録。1991年リリースの5thアルバム『Metallica』は全世界で1,600万枚以上を売り上げ、グラミー賞を受賞するなどバンドの最も商業的に成功した作品のひとつとなったが、2021年に同作の30周年を記念し発売されたカバー・アルバム『The Metallica Blacklist』には、Corey Taylor(SLIPKNOT/STONE SOUR/Vo)、WEEZER、GHOSTといったメタル/ロック畑だけでなくMiley Cyrus、Kamasi Washingtonなどジャンルを横断した53組ものアーティストが参加しており、改めてその影響を窺い知ることができる。
2016年の前作『Hardwired...To Self-Destruct』リリース後も、世界規模のツアーを行う一方で、2018年にはバンドが設立したチャリティ団体(All Within My Hands)の1周年を記念して、アコースティック・ライヴを開催(2019年2月にアルバム『Helping Hands...Live & Acoustic At The Masonic』として発売)、2019年には2度目となるオーケストラとのコラボ・ライヴ"S&M²"を行う(こちらも2020年8月にアルバムとして発売)など精力的な活動を実施。パンデミックが猛威をふるい始めた2020年3月からは、フル・セットのライヴ映像を週替わりでYouTubeとFacebookにて無料配信する"#MetallicaMondays"を開始し、ロックダウンを余儀なくされた人々の心の支えとなった。
そんなMETALLICAが、このたび完成させたニュー・アルバムが『72 Seasons』だ。"72の季節"というタイトルはJames Hetfield(Vo/Gt)によると、人の人生の最初の18年間、つまり"本当の自分"や"偽りの自分"を形作っていく年月のことを指しているのだという。彼は"「自分はこういう人間なのだ」という、親から教え込まれた概念。自分がどういった性格の持ち主なのかという、決めつけの可能性。これに関して最も興味深いのは、そういった核にある確信がその後の人生でも引き続き考慮に入れられていくということ、そしてそれが自分たちの世界の捉え方に今どんな影響を与えているかということだと思う。大人になってから俺たちが経験することの多くは、こうした子供時代の体験の再現であったり反応だったりするんだよ。子供時代という檻の囚人であり続けるか、あるいはそういった束縛から自らを解き放つかってことだね"と続けている。そうしたテーマが掲げられた本作は、前々作『Death Magnetic』(2008年)や前作で推し進めてきた、NWOBHM/パンクといった自らのルーツや、これまでバンドが提示してきたスラッシュ・メタルやサザン・ロック/ヘヴィ・ロックなどの多様な表現を見つめ直した作風を継承しつつ、よりパワフルに再構築したサウンドが詰め込まれた。ヴィヴィッドな黄色を背景に壊れたベビー・ベッドや玩具が描かれたアートワークも、その表れと言えるかもしれない。バラードやインスト・ナンバーを廃し、彼らのライヴを彷彿とさせるような圧倒的エネルギーとパッションがほとばしる約77分だ。
オープナーの表題曲「72 Seasons」から、切れ味鋭いリフに突進するドラム・ビート、構築的な曲展開と、いかにもMETALLICAらしい内容で一気に作品へと引き込まれる。続く「Shadows Follow」もテンションを維持しつつ、ゴリゴリとしたリフで聴かせるナンバーだ。「Screaming Suicide」では自殺というタブーを扱いながら、パワフルなサウンドで悩める人々に同調し、救いの手を差し伸べている。「You Must Burn!」は、『Metallica』収録の「Sad But True」にドゥーミーなエッセンスを加えたような仕上がりで、歌詞ではドゥーム・メタルには馴染み深いテーマである中世の魔女裁判を下地に、SNS時代の群集心理を揶揄しているのが興味深い。ちなみにこの曲はRobert Trujillo(Ba)のヴォーカルを初めてフィーチャーした楽曲だが、歴代ベーシストで最長の在籍期間となった彼のプレイが随所で光っているのも本作のポイントだろう。中盤のハイライトである「Lux Æterna」はJames Hetfieldいわく"ライヴ会場に集った人々が、人生の喜びや音楽から得る愛、家族や仲間との絆を味わいながら、高揚感に浸れることについて歌っている"楽曲で、NWOBHMを意識したポジティヴなサウンドが実に心地いい。
アルバム後半に入り、「Crown Of Barbed Wire」では、ミドル・テンポでじわじわと締めつけられるようなヘヴィネスが炸裂。「Chasing Light」はエモーショナルなギター・ソロが印象的なナンバーで、サビのコール&レスポンスがライヴでも映えそうだ。「Too Far Gone?」は軽快な歌メロと叙情的なリフがキャッチーで、中盤のツイン・リードも聴きどころ。「Room Of Mirrors」は前作の「Spit Out The Bone」を思わせるようなスラッシュ・チューンで、パンチのあるビートや勇壮なツイン・リードに思わず胸が熱くなる。そしてアルバムを締めくくるのは長尺の「Inamorata」で、陰鬱なリフにクリーン・トーンのセクション、ドラマチックな曲展開と、METALLICAのヘヴィ・サイドを集約したような大曲だ。
先にも述べた通りMETALLICAは絶大なる成功を収めたバンドではあるのだが、その影にはベーシスト Cliff Burtonの死や、メンバー内の確執、依存症問題など、常に闇がつきまとってきた。James Hetfieldは"知っての通り、俺の人生や俺たちのキャリア、そして俺たちの身に起きたことには、たくさんの暗闇が影を落としていた。だけどそこには常に希望があり、暗闇に射す光があったんだ。闇があったからこそ、人生に射す光のほうに、もう少し目を向けることができるようになる。昔はどうだったとか、今どんな酷い状況にあるかとかではなくてね。人生にはいいこともたくさん起きているんだから、そっちに集中するほうがいい。それが俺にとっては人生の帳尻合わせに繋がるんだ"と語っているが、パンデミックなどの社会不安が渦巻き、ライヴさえもままならなかった時代に生み出された本作は、闇を知り闇と向き合い続けてきたMETALLICAだからこそ放つことのできる光で、苦難の日々を生きる人々を照らすアルバムだと言えるだろう。
40年以上にわたり世界のメタル・シーンを牽引し続けるMETALLICAの歴代アルバムもチェック!
▼リリース情報
METALLICA
ニュー・アルバム
『72 Seasons』
2023.04.14 ON SALE!!
UICY-16145/¥2,860(税込)
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TOWER RECORDS
HMV
※日本盤のみSHM-CD仕様/初回生産限定ロゴステッカー封入
1. 72 Seasons
2. Shadows Follow
3. Screaming Suicide
4. Sleepwalk My Life Away
5. You Must Burn!
6. Lux Æterna
7. Crown Of Barbed Wire
8. Chasing Light
9. If Darkness Had A Son
10. Too Far Gone?
11. Room Of Mirrors
12. Inamorata
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