MENU

激ロック | ラウドロック ポータルサイト

FEATURE

IRON MAIDEN

2021.09.08UPDATE

2021年09月号掲載

ヘヴィ・メタルを代表するモンスター・バンドが放つ"戦術"――過去最大級に重厚でドラマチックな、約6年ぶり17枚目のニュー・アルバム!

Writer 菅谷 透

MAIDENが探求してきた、エピックでプログレッシヴなメタルの集大成がここにある


1980年のデビュー以降、40年以上の長きにわたりシーンを牽引するIRON MAIDEN(以下:MAIDEN)。これまでに63ヶ国で2,000回以上のライヴ・パフォーマンスを行い、アリーナ・クラスの会場や大規模ロック・フェスを揺るがすパフォーマンスを魅せる現役のライヴ・バンドである一方、スタジオ・ワークでも通算16枚のアルバムをリリースし、累計9,000万枚以上のセールスを記録する、まさにヘヴィ・メタルを代表するモンスター・バンドが、約6年ぶり17枚目となる最新アルバムを発表した。しかもそのタイトルは日本語に由来する"Senjutsu(邦題もそのまま"戦術"!)"ということで、バンドのキャラクター"エディ・ザ・ヘッド"が甲冑を纏ったインパクト大のジャケット写真と合わせて、心を躍らせたファンも多かったのではないだろうか。

前作『The Book Of Souls』(2015年)以来のアルバムである『Senjutsu』は、長年タッグを組むKevin Shirleyと、ベーシストでありリーダーでもあるSteve Harrisの共同プロデュースのもと、2019年初頭にレコーディングが行われた。MAIDEN史上初の2枚組アルバムとなった前作に引き続き2枚組で、10曲約82分というボリュームの大作アルバムだ。ソングライティングの面では、Harrisが単独で制作した曲が4曲収められており、彼のみが手掛けた曲が複数収録されているのは1998年の11thアルバム『Virtual XI』以来となる。特に本作のラストに位置する3曲はいずれも10分を超す長尺曲で、プログレッシヴ・ロックをバックボーンに持つHarrisらしい世界が展開されている。そんな本作の方向性をひもとく鍵は、MAIDENの最新ツアー"Legacy Of The Beast World Tour"に隠されていたようだ。

『The Book Of Souls』のツアー終了後の2018年にスタートした"Legacy Of The Beast World Tour"は、過去最大級のステージ・セットや演出が話題を呼んだワールド・ツアーだ。コロナ禍の影響を受け、2020年5月に予定されていた日本公演などが中止となってしまったが、公演の模様はライヴ・アルバム『Nights Of The Dead, Legacy Of The Beast: Live In Mexico City』(2020年)で窺い知ることができる。このツアーでは「Aces High」(1984年リリースの5thアルバム『Powerslave』収録)、「The Trooper」(1983年リリースの4thアルバム『Piece Of Mind』収録)などの代名詞的な定番曲はもちろん、これまであまり演奏されることのなかったレア曲もセットリストに含まれていた。そのなかには14thアルバム『A Matter Of Life And Death』(2006年)収録の「For The Greater Good Of God」や、「Sign Of The Cross」(1995年リリースの10thアルバム『The X Factor』収録)、「The Clansman」(『Virtual XI』収録)といった、Harrisがこれまで手掛けてきた、壮大でダークな世界観を持った楽曲も名を連ねており、こうした楽曲を久しぶりにファンに披露したことで得た手応えが、ツアーの合間を縫って制作された『Senjutsu』にも反映されたのではないだろうか。かくして完成された本作は、MAIDENがこれまで積み上げてきたストーリーテリングの能力と、過去作でものぞかせてきたエピックでプログレッシヴなメタルを最大限に発揮した戦術へと定まり、MAIDENのパブリック・イメージとも言える疾走感あるサウンドと好対照をなすような、過去最大級に重厚でドラマチックな作品に仕上がったのだ。

タイトル・トラックのオープニング・ナンバー「Senjutsu」は、Nicko McBrainの奏でる雄大なビートが陣太鼓の如く鳴り響き、合戦場に向かう武士の静かな高揚を表現しているかのようだ。同名のボード・ゲームと日本の将棋から着想を得たという「Stratego」はJanick Gers(Gt)とHarrisが手掛けており、これぞMAIDENと言うべき疾走するギャロップ・ビートに、ツイン・リードのハーモニーが胸を熱くさせる。続く「The Writing On The Wall」はAdrian Smith(Gt)/Bruce Dickinson(Vo)の共作によるもので、サザン・ロック調のトラックにBruceのパワフルな歌声が見事に合わさったナンバー。本作の第1弾シングルとして公開された楽曲だが、アルバムの流れのなかで聴くとまた異なる表情を見せてくれる。タイトルは旧約聖書の出来事から転じた不吉な予言を指す慣用句。Bruceがコンセプトを手掛け、聖書を題材にポスト・アポカリプス的な世界観もミックスしたアニメーション・ビデオも秀逸だ。

Harrisによる「Lost In A Lost World」では、PINK FLOYDを思わせる浮遊感あるイントロから鋭いバンド・サウンドへと繋げ、重層的な曲展開が繰り広げられる。今作随一のショート・チューンである「Days Of Future Past」は、タイトに疾走するグルーヴにBruceの朗々とした歌声が映え、ライヴでも盛り上がる楽曲となりそうだ。ディスク1の最後を飾る「The Time Machine」も「Stratego」に続きGersとHarrisの共作だが、爽やかで開放感のあるサビメロから目まぐるしく変化していく展開が面白い。口ずさみたくなるフレーズから、ゴリゴリとしたヘヴィなリフまで、MAIDENが誇るギター・チームの面目躍如といったところだろう。

ディスク2の開幕を告げる「Darkest Hour」は、イギリスの首相 ウィンストン・チャーチルが第2次世界大戦当初のナチス・ドイツを指して使ったとされる言葉で、冒頭のさざ波は決死の退却戦"ダンケルクの戦い"を思わせる。チャーチルと言えば、MAIDENファンにとっては彼の演説が"バトル・オブ・ブリテン"の空中戦を描いた「Aces High」のイントロとして用いられていることでお馴染みだが、バンド屈指の疾走曲である同曲に対し、「Darkest Hour」は兵士たちを悼むような、重々しく哀愁漂うバラードだ。同時代の出来事をテーマにして、これだけ振り幅の広い楽曲が生まれたことは、MAIDENの懐の広さや、本作のスタンスを物語っているようで興味深い。終盤に鎮座するHarris作曲の3曲はそれぞれ独立したテーマの楽曲だが、通して聴くことでより深く楽しむことができるだろう。ミドルテンポながらユニゾン・パートが焦燥感を煽る「Death Of The Celts」に始まり、Smith/Gers/Dave Murrayのトリプル・ギターが躍動し、勇壮なメロディから疾走パートへと移ろう「The Parchment」は、やがて訪れるクライマックスへと、聴き手を徐々にだが確実に導いてくれる。そして堂々のラストを飾る「Hell On Earth」は、ギャロップ・ビートの上でアンセミックなメロディが響き渡る往年のスタイルを、今のMAIDENならではのドラマチックなスケール感で昇華した珠玉の名曲だ。この世の地獄を歌い上げる、鬼気迫るBruceのヴォーカルも相まって、MAIDENを代表する新たな1曲になるのではないかとすら感じる。

今までMAIDENが探求してきた、エピックな作風の集大成とも言える『Senjutsu』。その長さゆえに集中力を要するのは否めないが、何度も反芻することで新たな発見があることもまた間違いない。往年のファンはもちろん、ベスト選曲のプレイリストしか聴いたことがないというリスナーも、本作を足掛かりに、MAIDENの奥深き世界に触れてみるのも一興だろう。MAIDENは2022年には"Legacy Of The Beast World Tour"の最終行程を再開させる予定だが、彼らが日本の地を再び訪れる日を、ぜひ本作とともに待ちたいところだ。


40年以上の長きにわたりシーンを牽引し続けるMAIDENの歴代アルバムもチェック!


『Iron Maiden』
(1980年リリース)

『Killers』
(1981年リリース)

『The Number Of The Beast』
(1982年リリース)

『Piece Of Mind』
(1983年リリース)

『Powerslave』
(1984年リリース)

『Somewhere In Time』
(1986年リリース)

『Seventh Son Of A Seventh Son』
(1988年リリース)

『No Prayer For The Dying』
(1990年リリース)

『Fear Of The Dark』
(1992年リリース)

『The X Factor』
(1995年リリース)

『Virtual XI』
(1998年リリース)

『Brave New World』
(2000年リリース)

『Dance Of Death』
(2003年リリース)

『A Matter Of Life And Death』
(2006年リリース)

『The Final Frontier』
(2010年リリース)

『The Book Of Souls』
(2015年リリース)


▼リリース情報
IRON MAIDEN
ニュー・アルバム
『Senjutsu』
maiden_Senjutsu.jpg
NOW ON SALE!!
[WARNER MUSIC JAPAN]
※海外盤リリース済み
・解説/歌詞/対訳付
初回プレス分特典:特製エディ・ステッカー(2種の内1枚ランダム封入)

【通常盤】(2CD)
WPCR-18449~50/¥3,300(税込)
amazon TOWER RECORDS HMV

【デラックス・エディション】(2CD)
WPCR-18447~8/¥3,960(税込)
amazon TOWER RECORDS HMV
※スリップケース付ブック仕様の豪華パッケージ(初回限定生産)

【完全限定ボックスセット】(2CD+BD)
2021.09.22 ON SALE!!
WPZR-30916~8/¥14,850(税込)
※完全数量限定豪華ボックスセット(輸入盤国内仕様)
封入特典:特製エディ・ステッカー

[DISC1]
1. Senjutsu
2. Stratego
3. The Writing On The Wall
4. Lost In A Lost World
5. Days Of Future Past
6. The Time Machine

[DISC2]
7. Darkest Hour
8. Death Of The Celts
9. The Parchment
10. Hell On Earth

[BD] ※完全限定ボックスセットのみ
1. The Writing On The Wall
2. The Writing On The Wall (SFX Version)
3. The Writing On The Wall (Making Of)

配信はこちら

  配信シングル
「The Writing On The Wall」
IM-TWOTW.jpg
NOW ON SALE!!

配信はこちら

  • 1