FEATURE
ALICE IN CHAINS
2018.09.05UPDATE
2018年09月号掲載
Writer 井上 光一
これはひょっとしたら、バンドにとっても新たな黄金期の幕開けかもしれない――ALICE IN CHAINS(以下:AIC)ほどの偉大な存在に対して、なんとも礼儀を欠いたもの言いではあるが、全米チャート初登場2位をマークした前作『The Devil Put Dinosaurs Here』(2013年)から5年、通算6枚目となる最新作『Rainier Fog』を聴けば、現体制によるバンドの充実したクリエイティヴィティを感じ取ると共に、私が言わんとしていることも理解していただけるのではないか。結成から30年を超えるキャリアの中で、このような名盤を再び世に送り出す彼らの凄味、決して色褪せぬ独自性に、改めて感服した次第である。
本作を語るうえで非常に重要なのは、レコーディング作業の一部が、バンドにとっての揺籃の地、シアトルで行われたということであろう。さらには、アルバム・タイトルとして名付けられた"レーニア山"、シアトルという雨の多い土地を示唆するかのような、"霧"という言葉。"俺たちが育った場所、俺たち自身、そして今まで経験してきた栄光や悲劇......、生きてきた人生のすべてにちょっとした敬意を表す作品さ"――煩をいとわず引用してしまうが、結成メンバーにして中心人物であるJerry Cantrell(Gt/Vo)の言葉が、すべてを物語っている。うねるようなギター・リフ、Jerryと共にオリジナル・メンバーとしてバンドを支えるSean Kinney(Dr)とMike Inez(Ba)による、地を這い深く沈み込むようなグルーヴを生み出すベース&ドラムス、呪術的とも称されるJerryとWilliam DuVall(Vo/Gt)の不協和音すれすれのハーモニー......これぞAIC節としか言いようのないTrack.1「The One You Know」。そしてストレートにカッコいい表題曲Track.2「Rainier Fog」、音階上における低音ではない、一音一音に纏わりつくものすべてがヘヴィなTrack.3「Red Giant」、ドゥーミー且つどこかブルージーなギターとベースが絡み合い、"向こう側"へと誘われてしまうようなTrack.5「Drone」と、どれも迷いのないAICらしい楽曲ばかりである。哀しみと優しさが交差するメロディが印象的なTrack.4「Fly」、美しいアカペラのハーモニーから始まり、ヘヴィなギターに頼らず、練られたバンド・アンサンブルでドラマチックに展開していくTrack.7「Maybe」あたりは、かつてアコースティック・サウンドを基調とした傑作EP『Jar Of Flies』(1994年)を作り上げた彼らの別の側面を思い起こさせるであろう。初のDuVall単独で書かれた楽曲であるTrack.8「So Far Under」が、もろに90年代的な、AIC節が炸裂するナンバーというのは、現在のバンドの好調ぶりを端的に示しているかのようだ。構造自体はシンプルで、最も"ロック"な楽曲でありながらも、サビにおける悲痛な叫びが胸に突き刺さるTrack.9「Never Fade」、AIC流の叙情的且つ催眠的ロック・バラードとも呼べそうなラスト曲、Track.10「All I Am」――全10曲、過去作と比べて最もコンパクトであり、同時に幅広い内容の楽曲が並ぶ作品となった。
Layne Staleyという、誰にも真似することのできないヴォーカリストの存在はすでに永遠となったが、その影を追うのではなく、今を生きるバンドとして妥協なき態度で生み出された、見事なアルバムである。AIC未体験という方々はもちろん、Layne時代のAICに特別な感情を抱くファン(私自身もそうだ)で、今のAICに距離を置いていたというならなおさら、彼らにしか成し得ないヘヴィ・グルーヴの渦に、再び飛び込んでみてほしい。
▼リリース情報
ALICE IN CHAINS
ニュー・アルバム
『Rainier Fog』
NOW ON SALE!!
WPCR-18088/¥2,500(税別)
※解説・歌詞・対訳付
[WARNER MUSIC JAPAN]
amazon TOWER RECORDS HMV
1. The One You Know
2. Rainier Fog
3. Red Giant
4. Fly
5. Drone
6. Deaf Ears Blind Eyes
7. Maybe
8. So Far Under
9. Never Fade
10. All I Am
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