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FEATURE

SATYRICON

2013.09.10UPDATE

2013年09月号掲載

ブラック・メタル・バンドとしての貪欲なまでの芸術性の追求 闇の帝王SATYRICONが5年振りに生み出した幻想と邪悪の融合世界

Writer 藤崎 実

ノルウェーが産んだ最凶のブラック・メタル・バンド、SATYRICON。ついに待望のニュー・アルバム『Satyricon』が完成し、世界に先駆け、日本先行リリースされることが決定。日本盤にはボーナス・トラックとして3曲が追加収録されている。

SATYRICONは1991年にノルウェーにて結成された。ブラック・メタル・バンドというカテゴライズであるが、その音楽性は決して保守的ではなない。初期はオーソドックスなブラック・メタルであったが、経験を重ね徐々にブラスト・ビートを多用したスラッシーで攻撃的なバンドに変化し、1996年には出世作ともいえる3rd『Nemesis Divina』を発表。激しくブルータルなメタル・サウンドながらも、シンフォニックな要素を両立させることに成功し、アメリカで話題になったことを切っ掛けに世界的な地位を確立した。その後、ヘヴィ・メタルへとサウンドが回帰。現在のSATYRICONの軸となっている、ギター・リフをメインにしたBLACK SABBATH的とも言える楽曲へと変化した。時代と共に常に進化し続けているバンドではあるが、自身の持つ音楽性やオリジナリティといった重要な部分は揺るがず、その道程が王道となっている。

SATYRICONは、1992年以降の正式メンバーはSatyr(Vo/Gt/Key)とFrost(Dr)の2人だけである。マルチプレイヤーであるSatyrがドラム以外の全ての楽器を担当し、作品ごとにゲストが参加という形を取っていることも、彼等の音楽に多様性がある理由であろう。Satyrは作詞家としても定評があり、現存する神話等をモチーフに独自の世界観で再構成し直すというストーリー・テリングの技量は彼の才能の豊さを物語っている。

8thアルバム『Satyricon』は、近年の音楽性を踏襲しつつ、正統派ブラック・メタル・サウンドにメランコリックなトラッド・サウンドやアコースティック・ギターを導入し、壮大で厳格な世界観を作り出している。ミドル・テンポの楽曲に叙情叙情的なメロディが絡み合う楽曲や、これぞデス・メタル!といった疾走感溢れる楽曲もしっかりと収録。Frostのドラミングも過去作品のようなブラスト・ビート一辺倒ではな無く、バスドラ1つ取っても緩急があり、ボイシングを意識した構成や独特のコード進行はプログレッシヴでさえあると感じる。ギター・ワークはTony Iommi的とも言えるサタニックなリフが多い。オールド・メタル然としたギター・リフの導入は、メタル成分の濃さや正統派メタル・サウンドを確立できるが、実はバンドとしてのサウンドが古臭くなってしまう危険性も孕んでいる。結果として、どちらかに分か別れるかはバンドとしての力量やメンバーのセンスによって大きく左右されるが、SATYRICONの現在のサウンドは成功例の1つと断言しても良いだろう。

SATYRICONはライヴ・アクトとしても評価が高く、EMPERORやCRADLE OF FILTH、DIMMU BORGIRといったブラック・メタル・バンドとの共演で着実にファン層を拡大させることに成功した。日本でも“Extreme The Dojo”や“LOUD PARK”といったメタル系フェスに参加。ヘッド・バンギングの嵐となるステージングも含め、そのパフォーマンスは初めて彼等に触れた予備知識ゼロのメタル・リスナーに強烈なインパクトを残した。また、バンドのコンセプトに相対するかのような端正なルックスが、世界中の女性ファンを虜にしているということも彼等の現在の地位を不動にした大きな一因である。来日時には、キーボードを担当していた女性メンバーの美しいヘッド・バンギングが一部で話題になったことも記憶に新しい。

ブラック・メタル特有の陰鬱な世界観と北欧独特の幻想的な世界観を、Satyrの悪魔的とも言えるグロウルが切り裂く様は、何故か“わび・さび”に近い感覚すら感じさせてくれる。歴史的猛暑と言われた夏が終わり色彩豊かな芸術の秋が訪れる今の季節にこそ、SATYRICONが奏でる神秘と狂気が渦巻く芸術作品を堪能してほしい。

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