FEATURE
THE CULT
2012.05.11UPDATE
2012年05月号掲載
Writer 沖 さやこ
UKポスト・パンク・シーンから突如現れ、その後のロック・シーンに多大な影響を与え続けるTHE CULT。前作『Born Into This』から約5年振りとなる待望の新作『Choice Of Weapon』が5月23日にリリースされる。
1983年に結成され、翌年1stアルバム『Dreamtime』をリリース以降、アルバムのトータル・セールスは数百万枚を記録し、世界中のアリーナをことごとくソールド・アウト。前作である8thオリジナル・フル・アルバム『Born Into This』をリリースした後、2009~2010年の足掛け2年に渡るロング・ツアー“Love Live”を敢行する。これは彼らの初期の代表作でありバンドを象徴する1枚となった2ndフル・アルバム『Love』収録曲をすべて演奏する、というコンセプトで開催されたワールド・ツアー。ここ日本でも2010年5月に新木場STUDIO COASTで開催され、大盛況で幕を閉じた。
そして2011年に入り制作されたのが、この『Choice Of Weapon』である。Ian Astbury(Vo)、Billy Duffy(Gt&Backing Vo)、元WHITE ZOMBIEのJohn Tempesta(Dr)、Chris Wyse(Ba)というメンバーで制作、レコーディングされ、プロデュースには4th『Sonic Temple』や6th『The Cult』を手掛けた盟友Chris Goss が当たり、ファイナル・ミックスにはQUEENS OF THE STONE AGEやU.N.K.L.E.等を手掛けたことで知られるBob Rockも携わっている。今作で9作目となるが、これまでにTHE CULTはフロント・マンであるIanの一時的脱退など、幾度となくメンバー・チェンジを繰り返し、自分たちの居場所を開拓するようにアルバムごとに様々な音楽性を打ち出してきた。今作には“武器を選べ、戦いの狼煙を上げろ”という強い思いが込められている。
彼らが一般的なハード・ロックと一線を画すのは、ルーツがTHE DOORSやTHE VELVET UNDERGROUNDといったサイケデリック・ロックであることも大きい(※THE DOORS再結成時にはIanがヴォーカリストとして参加している)。例えば、不穏さを漂わすTrack.10の「This Night In The City Forever」などのIanのヴォーカルには、Lou Reedの影響が美しく表れている。“武器を選べ”という言葉にも現れてる通り、今作はTHE CULTが29年という活動期間で得た感情と経験の中から厳選されたものと言って良いだろう。シンプルでありつつもヘヴィに、そして叙情的に迫り来る。UK出身でありながら1960年代のUSロックに影響を受けたというバックグラウンドが、そのままサウンドに現れていると言っても過言ではない。硬質なだけではなく、肉体的な膨らみのある音は、厳しくも優しい。大胆にストリングスを取り入れたTrack.4の「Life > Death」は、タイトルの通り繊細でありながらも強い生命力を感じられる、孤高の戦士のようなナンバーだ。どの曲も、長年閉まっていた扉をこじ開けるような“奮起”の念が込められている。心からストレートで、曇りのない感情の応酬。しきりに“俺は先に行く、お前はこのままでいいのか”と問われているようで背筋が伸びる。今までの人生、これからの人生に向き合うパワーを与えてくれる『Choice Of Weapon』。研ぎ澄ました強靭な武器を手に、THE CULTはまだまだ挑戦を続ける――。
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