INTERVIEW
SLEEP TOKEN DJ/ライター対談
2025.06.19UPDATE
2025年06月号掲載
自由にファンそれぞれが想像してSLEEP TOKEN像を作る、そういう魅力があるバンド(澤田)
-最新アルバム『Even In Arcadia』はついに日本盤リリースとなりますね。
菅谷:正直に言うと......最初に聴いたタイミングでは困惑のほうが大きくて(笑)。メタル的な要素から離れたという印象もありましたし。でも改めて聴き込むと配分がすごく絶妙だなと思いますし、1人でじっくり聴き込むこともできるし、BGM的にも聴けて、普通のメタルに比べるとかなり生活にフィットするような、そんな聴き方もできる作品なのかなと思いましたね。
澤田:自分も初めて通しで聴いたときはさらりと聴けちゃって、今作はメタル度が控えめなのかなと感じたんですが、ゴリっと重たい部分はしっかりあるし、何回でも聴ける魅力があるんですよね。1曲目の「Look To Windward」が8分弱あって、全く商業的な部分には舵を切るつもりがないんだなって痛快なところもあって。さらに、今回のアルバムの面白いところが、好きな曲を聞くとみんな違っているんです。メタル好きな人だと、テクニカルで派手な「Gethsemane」が好きという人が多いように感じます。自分は「Provider」がすごく好きなんですよ。イントロがなくていきなり歌い出すというところとかも。菅谷さんにも好きな曲を聞きたいですね。
菅谷:僕としては「Damocles」が好きでして。
澤田:おぉー。
菅谷:往年のプログレ的な雰囲気もあって、あと明るい部分も感じさせつつ、歌として聴きやすさもあり、感情を揺さぶってくるところが好きですね。
澤田:今作のかなり弱気な歌詞もいいですよね。
菅谷:たしかに、成功を得てからの内面の葛藤みたいなものを曝け出している印象があります。
澤田:Sleep(Vesselが夢の中で出会ったと称する古代神)の教えを説くとかそういう部分じゃなくて、Vesselの苦悩というか告白のアルバムだなと思いましたね。その点が自分たちともリンクする部分があったりしてヒットにも繋がっているのかな、なんて思ったりします。
菅谷:「Past Self」で、キャッシュ・フローを二度見する("Double take on my cash flow")みたいな歌詞とかもあって。そういった本音みたいなところもありつつ、そういう自己開示的なパートではラップを使っているのも面白いなと。
-澤田さんが好きだという「Provider」についても聞きたいです。
澤田:これまでのSLEEP TOKENの集大成というか、エレクトロ・ビートもありR&Bのような歌い出しもあるし、後半は待ってましたの轟音ギターで心洗われるというか、すごい完成度だなと思いましたね。あと菅谷さんが挙げていた「Damocles」はライヴというかツアーへの不安とも取れる歌詞が出てきて、それはびっくりしました。こんなことを綴っちゃうのかこの人はと思いましたね。ラジオ番組に"Vesselの祈りを歌声から感じました"というリスナーからのメッセージもあったんですけど、たしかに何か彼からの現代への祈りが声になっているというか、それもまた人それぞれ感じ方が違うアルバムになっているなと感じました。
菅谷:「Damocles」はツアーへの不安みたいなことを歌いつつも、ツアーですごく盛り上がるだろう曲にはなっていると思うので、そういった逆説的な部分も面白いですね。"こんなコードは退屈だと分かっている(I know these chords are boring)"とか入っていたり。
澤田:曝け出している感が面白いですね。
-SLEEP TOKENってジャンルレスな分、ラジオだといろんな番組で掛けやすいんじゃないかと思ったりはするんですけど、DJとして感じることはありますか?
澤田:音的にはOKなんですけど、ラジオでかけるには尺が長すぎるんですよね(笑)。
-尺が長い(笑)。
澤田:なので、ラジオのディレクターとかにも薦めるんですけど、"6分もあるじゃん"って反応になるんです。かといってSLEEP TOKENがラジオ・エディットを出すわけがないんで、全米、全英1位取ったけど、日本のラジオはどうかな......と思いますね。今のメインストリームの音楽って2~3分台じゃないですか。自分的にはそこに背を向けているSLEEP TOKENかっこいいなと思うんです。あえていきなり1曲目から8分みたいな。そこが痺れますよね。
菅谷:ラジオだと展開が変わる前に終わっちゃうかもしれないですね(笑)。
澤田:作ろうと思えばラジオ・エディットも作れるんでしょうけど、まぁたぶん作らないんじゃないのっていう。それでも全米1位を獲っているんで、後追いでかかるようになってくれればいいなとは思っているんですけどね。
-あとは今作での変化について感じることはありますか?
菅谷:サウンド的にはよりシネマチックになったというか、物語性が大きくなったのではないかと思いますね。インストとして出したらそのままゲームや映画のBGMに使えるんじゃないかっていうくらい、ストーリー性があるなと感じます。
澤田:変化というか前作の流れを引き継ぎつつダイナミックになったという印象です。「Emergence」の最後1分くらいのサックスが出てくるシーンは、ロック・ファン以外の層が反応するような仕掛けもしているなと思いましたね。ただ大きな変化というとそこまでは感じなかったです。
菅谷:たしかに一度聴くとすごくポップに寄っている印象もあったんですが、改めて一連のSLEEP TOKENのディスコグラフィとして並べてみると、めちゃくちゃ変化しているわけではなくて。それでもポップさが際立っているのは、不思議なところではありますね。
澤田:すごく多様なものが入っているけど、バランス良くまとまっているという、そこが恐ろしい部分かなと思いますね。
-SLEEP TOKENの今後についてはいかがですか?
澤田:やっぱり"Download Festival"のヘッドライナーもあるし、秋の全米17都市ソールド・アウトのツアーもありますし、この後まだ大きな動きがあると思うんで、伸びしろしかないような状況は楽しみですね。ここでピークじゃないんだ、さらにどう化けるのかなって思います。
菅谷:それに加えて、このアルバムがどのような影響を与えていくかに関心があるというか。SLEEP TOKEN前/後と語られる歴史的なアルバムになる予感がしている作品で、これがポップ・シーンでどう活かされていくのかだったり、あるいはメタル・シーンからカウンターが来るのか、みたいなところにも興味がありますね。あと、やっぱり来日公演は観てみたいです(笑)。
澤田:ですね。あまりにも個性的すぎるんで、ポストSLEEP TOKENみたいな存在のフォロワーが今後出てくるのかなっていう期待はありますけど。
菅谷:ここまで全てをプロデュースできるバンドが今後出てくるのかと言われると、難しいかもしれないですね。
澤田:ただ出てきたらシーンはかなり面白くなりますね。
-SLEEP TOKENがポップ・シーンに影響を与える可能性についてはいかがですか?
菅谷:今作は"こんな遊び方もありますよ"というのを1つの答えじゃないですけど出しているのかなと思っていて。例えばRina Sawayamaがニューメタルっぽいサウンドを入れたり、メタルとポップが接近していると思うので、SLEEP TOKENライクと言うと大げさですけど、ヘヴィとかDjentっぽい音も増えていくのではないかと考えていますね。感情的なパートで爆発的なヘヴィ・サウンドを用いる手法が、ポップ・シーンの人にとっては"こんなやり方があるんだ"と気付く作品になるのではないかと思います。
澤田:ただSLEEP TOKENの音をポップ・アーティストが真似てヒットさせることは、超ハイレベルだと思うんですよね。SLEEP TOKENが全米1位を取ったことが異質すぎて、ポップ・シーンに波及するというのが想像できないです。POPPYとかとはまた違うヒットの仕方をしたと思うので。
-それはたしかにおっしゃる通りで、POPPYはあくまで既存のヘヴィ・ミュージックの流れの延長線上にいますよね。
澤田:そうですよね、その流れは想像できるというか。あくまでミクスチャーというかそんな感じで。そもそもVesselのヴォーカルからしてメタルではないですもんね。ジャンル分けしていいか分からないですけど。こういう話をする程やはりSLEEP TOKENの異質さがより際立ちますね。
-Vesselにどのジャンルのどの歌を歌ってもらっても、結局はすごい......ってなりそうな感じがします。
澤田:なりますね。声の色が濃いので、何をやってもSLEEP TOKENの音にできるっていう強みが彼の声にはありますよね。
菅谷:誰が聴いても上手いと思わせられるし、上手いだけじゃなく感情に訴え掛けてくるような声をしているなと感じます。
-今回は珍しい試みの対談となりましたが、改めて振り返っていかがでしたか?
澤田:SLEEP TOKENから正式なステートメントってほぼないじゃないですか。だからSLEEP TOKENについて話すとどうしてもふんわりするんですよね(笑)。そこが今までないというか。自由にファンそれぞれが想像してSLEEP TOKEN像を作る、そういう魅力があるバンドだなと感じます。そして、やっぱり来日公演が実現してほしい! できればでっかいステージで観られればなと思いますね。LORNA SHOREも来日しましたし、個人的には可能性あると思っています。衣装とかも和のテイストがあるじゃないですか。なのでVesselが親日家だといいなと。そしてとにかく、SLEEP TOKENにハマっている人は日本国内で宣伝活動をしてほしいですね。それが来日に繋がると思うんで。日本でもっともっと盛り上がっていってほしいと考えています。
RELEASE INFORMATION
SLEEP TOKEN
ニュー・アルバム
『Even In Arcadia』
【日本盤】
2025.06.25 ON SALE!!
SICP-6703/¥2,860(税込)
解説/歌詞/対訳付
日本盤のみ、ボーナス・トラック2曲収録
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