INTERVIEW
甘い断頭台
2024.12.27UPDATE
2025年01月号掲載
Member:Minami Maria(Vo) Yuria(Gt) Hitomi(Gt) Hiko(Ba) Louis(Dr)
Interviewer:杉江 由紀
-2曲目の「不滅の花」は2024年5月にMVが公開されていた曲でもありますので、こちらは今作のリード・チューンとして捉えても良さそうです。
Maria:バンド側としてはどれもリード・チューンとして聴いてもらいたいくらいですし、どの曲に対しても自信を持っているんですが、今回は「不滅の花」に加えて9曲目の「Bloody Dress」も新しく発表したので、その2曲がアルバム『Memoire Rouge』を象徴する曲たちになっていると言えますね。
-「不滅の花」はYuriaさん作曲、 Mariaさん作詞によるものとなりますけれど、これはいかなるヴィジョンのもとで作られた楽曲になるのでしょう。
Yuria:この曲ではツイン・ギターで存在感を打ち出す意味も込めて、ツインのハモりから始まるかたちにしました。全体的にギター・リフを聴かせるようにしたところもポイントです。それから、初めてMariaの声が聴こえてくるAメロの歌メロは耳に残る特徴的なフレーズにしたかったので、そこもこだわりました。全体を通して聴いていて飽きないような展開にもこだわりましたね。
Hitomi:これはまさにギター・リフがとても大事な曲なので、私もそこの精度とクオリティはすごく追求してます。
-ドラマーの立場からすると、この「不滅の花」で意識されたのはどのようなところだったのでしょうか。
Louis:展開が多い曲なので、激しさのあるAメロに続き、疾走感のあるサビに向かっていくためのBメロが結構大事だなと感じてましたね。このBメロのドラムがこの曲を繋いでいくんだという意識を持って、その役割を果たすためのプレイをしていくようにしました。
-Hikoさんがこの曲のベース・プレイで特に留意されたのはどのようなことでしたか。
Hiko:ギター・リフを繰り返すところで、そのままだとコード感が少し物足りなくなってしまいがちなところについては、ベースラインを動かしましたね。それだけではなくて、アレンジ的にはオーケストラの要素もそこを補うかたちで入れてます。
-Hikoさんの音楽的な視野の広さが存分に活かされているわけですね。
Hiko:私はどちらかというと、あまりベーシストらしくないベーシストなのかもしれません。弾きたいベースフレーズを弾くと言うよりは、ベースという楽器自体が全体の音を繋ぐ役割を持っているということに加え、甘い断頭台ではオーケストラの部分も担っていく必要があるので、時にはベーシストとしての自分のやりたいところを殺して、アレンジとしてのまとまりを優先することもあります。でも、私としてはそれが最も自分のやるべきことだと思ってます。
-かと思うと、 Mariaさんが書かれているこの曲の詞では、ギロチンの露と消えたマリー・アントワネットの遺した言葉とされている"パンがなければお菓子を食べればいいじゃない"というあの1節を、絶妙にもじったかたちで"靴がなければ裸足で/踊ればいいじゃない"と表現されているところも大変興味深いです。マリー・アントワネットという人物については浪費や不倫に明け暮れた悪女と捉える人と、運命に翻弄された悲劇のヒロインと捉える人がいるように思うのですが、甘い断頭台はそこをあえて断定しない視点から作品を描いているようにも感じられます。これは意図してのことですか?
Maria:私としては、全然悪役大歓迎という感じなんですよね(笑)。みんなが悪役を望むならば、私は悪役になってもいいと思っていますし、逆に悲劇のヒロインとしての一面を求められることがあるのなら、その気持ちにも添いたいので、どっちも表現していければと思っているんです。
-もう1曲のMVになっている「Bloody Dress」は、Hikoさんが作詞作曲ともに手掛けられたものとなります。この曲はアルバムの最後を締めくくるものにもなっておりますが、作られた段階からご自身でも後々そうした存在感を持つものになっていく、と想定していらっしゃったのでしょうか。
Hiko:この曲と詞を作るにあたっては、自分の中で感じている甘い断頭台というものの要素全てを詰め込みたいという気持ちがありましたね。リーダーであるMariaの放っている個性をはじめとして、自分から見た各メンバーの持っているカラーや、それぞれの持っている良い部分を引き出せるような部分を音として入れていって、もちろんこのバンドの根底にあるフランスの革命時代の雰囲気も、できるだけたくさん組み込んでいくようにしたんですよ。歌のメロディも、Mariaの声が最もきれいに響く音域をしっかり研究した上で作りました。
-さすがです。
Hiko:ギターもYuriaとHitomiのツインが一番美しくハモれるように旋律を考え、個々のソロやテクニカルなタッピング、スクラッチ、アーミング奏法等も怒濤のように入れることで、ギター好きさんたちも楽しめる曲に仕上げてあります。ドラムについてもLouisならこんな激しいフレーズでも叩いてくれるだろう(笑)というものを盛り込みました。
-その他にも今作には多くの曲が収録されていますので、ここからはダイジェスト的に曲紹介をしていければと思います。3曲目の「ラ・ヴィ・アンテリュール」はYuriaさんの作曲作詞によりますが、こちらは何をイメージしながら作られたものでした?
Yuria:これは私たちが前世というか、宮殿での豪華な舞踏会や、貴族たちが夜を楽しんでいるような光景を思い出しながら作ったものですね。それもあって、この曲の中には懐かしさを感じるようなコード進行や歌のメロディー、ギター・リフにもこだわって、ちょっと"エモい"部分というのも入れたかったんです。
Maria:「ラ・ヴィ・アンテリュール」はかわいい曲でもあるので、私としては思いっきりかわいさ全開で歌いました。
-Louisさんが作曲作詞をされている「Histoire ~紅き宝石の呪い~」は、物語性がことさら強い内容で、これはもしや俗に言う"ホープダイヤの呪い"の話をベースにしたものだったりしますか? たしか、当時ホープダイヤと呼ばれていたブルーダイヤは、マリー・アントワネットの手元にも一時的に渡ったことがあるという逸話を持つ宝石でしたけれど。
Louis:これはまさにブルーダイヤの物語を甘断(甘い断頭台)バージョンで描いた曲なんですよ。甘い断頭台だったら青じゃなくて赤だな、と思って"Histoire ~紅き宝石の呪い~?"というタイトルにしたんです。
-赤の色イメージは、YuriaさんとMariaさんが共同で作曲をされて、Mariaさんが詞を書かれている「CHI.SHI.BU.KI」と「薔薇色革命Wonderland」の2曲にも通じているものとなりますね。
Yuria:「CHI.SHI.BU.KI」も「薔薇色革命Wonderland」も、作り方としては先にMariaさんの作った歌メロと歌詞があって、そこから曲全体を私が作っていきました。
-それにしても、"CHI.SHI.BU.KI"とはなかなか不穏なタイトルです。
Maria:これは相手に傷つけられたときに返り血が飛んでいる様子を描いた歌詞で、私としては相手に"もっと返り血を浴びてほしい! 浴びるがいい!"と思っている場面なんです。まぁ、ドMな感じですね(笑)。
Yuria:"CHI.SHI.BU.KI"というタイトルにピッタリ合うような、コード進行であったり、アグレッシヴだけれど不穏さも感じられるような展開を意識して作曲しました。曲の中でブレイクダウンがあるんですけれど、そこにはおどろおどろしさを増させるためにMariaに語り掛けるような歌とデスボを入れてもらいました。
-それでいて、同体制で作られている「薔薇色革命Wonderland」は、空気感がまたがらりと一気に変わります。このギャップはすごいですね。
Maria:この曲に関しては、甘い断頭台の"甘い"部分を前面に打ち出したものにしたかったんです。
Yuria:曲のタイトルや歌詞を最初に見て、そしてMariaの歌声だけのデモ音源を聴いて、この曲では甘い断頭台のかわいいところや、聴いているみんなが楽しくなるような面白い要素を入れていくようにしました。転調やベース・ソロもあり、曲の展開的にも歌詞的にも、結構盛りだくさんで"薔薇色革命Wonderland"というタイトルがピッタリだと思います。
Hitomi:かわいい曲の中でもガタンと急に深く落ちるような場面があるので、パフォーマンスでも演奏面でもシリアス感を醸し出してメリハリを付けることを重視しています。
-さて、7曲目の「LABYRINTHE」と8曲目の「永久の冠」は、どちらもLouisさんが作曲をされてMariaさんが詞を書かれているものとなりますが、これらについても解説をいただけますでしょうか。
Louis:「LABYRINTHE」はMariaさんの甘い歌声を活かすために作った曲ですね。このアルバムは全体的にテンポが速い曲が多いので、ここではあえてテンポを落としてちょっと語りを途中に入れながら、Mariaさんの持ち味を引き出していくようにしました。
-あの語りのくだりは、演技というよりも憑依といったほうが正しそうです。
Maria:実は、私たちって過去の記憶がないんですよ。記憶の断片が散らばっているところはあるんですけど、まだ全体を取り戻せてはいないんです。この詞や歌や語りでは、そういった部分を表現できたのではないかと思います。
Louis:「永久の冠」のほうは完全に私の個人的な好みを詰め込んだ曲で、メロスピ全開になってます(笑)。壮大な響きの曲にしたかったので、MariaとHitomiにクワイアもたくさん入れてもらいました。あと、物語としてはこれはとある国の話になります。ある国の王様が民たちのことを全く考えない悪い王で、やがて苦しんだ民たちの中から立ち上がった勇者が現れ王を倒そうと剣を振りかざすんですけれども、実は王が自分の判断で悪政をしていたわけではなく、影に黒幕がいて、王を操っていたんです。その黒幕は「執刀ルネサンス」という曲に出てくるんですけど、今回の「永久の冠」はその前日譚なんです。「執刀ルネサンス」では、フランス革命時代に斬首された人たちの遺体を実験して蘇らせるという場面を描いていて、黒幕が実験をしたいがために争いを起こさせていたという話だったんですよ。Mariaには"こういう物語で「執刀ルネサンス」の前にあたる歌詞を書いてください"とお願いして、歌詞を書いてもらいました。
Maria:素敵! って思いました。喜んで書きますとも! となりましたね。
-甘い断頭台にとっての1stフル・アルバム『Memoire Rouge』は、音楽的にもストーリー的にもつくづく濃厚な作品に仕上がったようですね。これもまた、赤のイメージを纏ったタイトルになっているところが非常に象徴的です。
Maria:"Memoire"はフランス語で記憶という意味で、先程も申し上げた通り私たちはまだ記憶の断片が散らばっている状態ではあるんですが、どれもそれはどことなく赤いイメージと重なるところがあるんですよ。
-血、薔薇、赤い宝石といったキーワードたちが今作には出てきていますものね。
Maria:だから、このアルバムには"Memoire Rouge"というタイトルを付けました。
-このアルバムを聴くまでは、そもそも"甘い断頭台"だなんて、ずいぶんと過激なバンド名を名乗っていらっしゃるなぁと思っていたのですけれど、今回の取材を通して、たしかにこのバンドはスウィートな部分と、熾烈な部分を両方持っているなと感じました。
Maria:かわいいと狂気を併せ持ったガールズ・メタル・バンドを目指したかったので、"甘い断頭台"というバンド名にしたんですよね。この名前は自分たちでもすごくしっくり来ています。
-2025年春には2周年を迎えようとしている今、甘い断頭台はきっとここからより飛躍していくことになるでしょう。最後に現時点での将来的な展望をお聞かせください。
Maria:まだまだ分からないことが多いので、とりあえずは前世の記憶を取り戻していきたいんですよ。
Yuria:そのためにはフランスでライヴをしてみたいって話をしましたよね。
Louis:日本を飛び出してフランスに里帰り。
Hitomi:いろんな枠を飛び越えていくっていうのは、記憶を取り戻すためにもいいような気がしますね。
Hiko:とはいえ、まだ始動して2年経っていないという意味では、バンドとしての経験値も多くはない状態ですから、これからバンドとしていろんな経験を積んで成長していきたいです。
Maria:まずは2024年の終わりから始まる(※取材は12月上旬)、私たちにとって初めてのアルバム・ツアー([1st Full Album "Memoire Rouge" Release Tour『甘美なるWonderlandを召し上がれ...♡』])で今の甘断はこんなことができるんだ、ということを実際に確かめてきたいと思います。そして、その経験を次に繋げていきたいですね。