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INTERVIEW

TONERICO

2024.03.13UPDATE

2024年03月号掲載

TONERICO

Member:Jill(Vn) 星野 沙織(Vn)

Interviewer:フジジュン

清く激しく麗しく、ツイン・ヴァイオリンが織りなす耽美で優雅な世界。Unlucky MorpheusのJill、soLiの星野沙織の女性ヴァイオリニストふたりによるユニット TONERICOによる1stアルバム『Valkyrie Notes』が完成した。導かれるように出会ったふたりの超絶ヴァイオリニストが生み出す芸術世界が錬金術のように展開され、聴く者の魂を揺さぶる今作。ふたりの特異なキャリアとスキルとセンスにより、美しく繊細な音楽が構築する非日常の世界へと誘ってくれるクラシックの要素と、激しくパワフルな音楽が気持ちを高揚させてくれるロックの要素のどちらも持ち合わせたTONERICOの音楽世界は唯一無二。リード曲「jinXnij」のサウンド・プロデュースを手掛けたTom-H@ckをはじめ、LIGHT BRINGERのMao、soLiのISAO、摩天楼オペラの優介といった豪華アーティストが作曲、演奏を務めた楽曲たちもふたりの魅力を最大限に引き出した、贅沢すぎる1stアルバムについて話を訊く。


オタクでゴシックな世界感が好きなふたりだから、言うまでもなくわかり合えた


-まずはおふたりの出会いから聞かせてください。

Jill:プロレスと演劇と音楽が融合した、総合エンターテイメント"魔界"というプロジェクトで初めて一緒に演奏したのが出会いです。それまでお互い、名前は知っていて。

星野:"魔界"で出会ったときは、"お噂はかねがね!"という感じで。

Jill:実際お話ししたら、"オタクの方だ、同じだ!"と思って(笑)。

星野:そう、陽の部分だけでなく、陰の属性を持った方だったんで。マイナス同士で惹かれ合うじゃないですけど、"あ~、同じ空気を感じる、良かった!"って安心感はありました(笑)。

Jill:あと、ロックなどのステージではヴァイオリニストもただ演奏するだけじゃなくて、パフォーマンスの部分も大事なので。自分のほかにパフォーマンスがカッコいい女性ヴァイオリニストって目の前で見たことがなかったんですけど、弾いてる姿もカッコいいと思ったし、私とは違うタイプのパフォーマンスだったので、シンパシーも感じながら"すごく面白い!"と思ってました。

-そこからTONERICOを結成して、一緒に活動することになったきっかけは?

星野:Jillさんがたびたび、劇伴作家の高梨(康治)さんのレコーディング現場に呼んでくださるんですが、何回目かのレコーディングを終えた帰り際に、私が意を決して"一緒にやりませんか?"って話をさせていただきました。

Jill:すごくナチュラルに誘っていただいたんで、私も"いいですよ"って二つ返事でお受けしたんですけど、あとから聞いたら、声を掛けるのにめちゃめちゃ葛藤してくださってたらしくて。私はそれまで何度か一緒にお仕事させていただくなかで、演奏能力はもちろんですけど、気遣いや人柄であったり、そういった部分にも魅力を感じていたし、演奏的にも私とは違った演奏のタイプや音質があって、私の演奏と合わさったときにより強くなれるんじゃないか? と思ったので、ぜひ一緒にやってみたいと思いました。

星野:私もJillさんのステージを観て、"こんなカッコいい人がいるんだ"と思ってて。普通、かわいい服装だったり素敵な風貌だと、かわいさを全面に押し出した演出だったり、そこまで攻めていない演奏内容でも十分ショーとして完成される、みたいなところがあると思うんですけど、Jillさんのステージは演奏に一切の妥協がなくて、それでいてお人形さんみたいにかわいい、なのにめちゃくちゃカッコいいという理想の形で。しかもゴシック調の世界観も私の大好きなジャンルなので、ぜひ一緒にやりたいと思いました。今回TONERICOをやるにあたって思っていることがありまして、それはこのプロジェクトがパッと生まれたものだと思ってもらいたくないということなんです。Jillさんに対する憧れの気持ちをずっと抱えながら、いろいろなご縁で一緒にお仕事する機会を得て、一緒に演奏会をやらせていただき、そうして意を決してお声掛けしてと、ここに至るまでの流れが段階的にあったうえで到達できたのがTONERICOなんです。なので実際に一緒にやるとなったとき、"このふたりがやるんだ、そうだよね"みたいな意見もあったのは、すごく嬉しく思いました。

Jill:そう、ファンの方の中には"このふたりの活動にとうとう名前が付いた!"みたいに思ってくださる方もいて。そう思ってもらえるのはすごく嬉しいです。"TONERICO"の名前も、ファンの方からご提案いただいたところがありまして。2023年5月、私たちふたりが弦楽アンサンブルを従えた演奏会([「Jill×星野沙織Twin Violinsコンサート」with"愉快な仲間たち"バロック弦楽アンサンブル])をやるというクラウドファンディングのプロジェクトがあったのですが、リターンの一部として支援者限定の配信をやったときに"グループ名を決めたい"という話になって。"私(Jill)は猫が好き、沙織さんは鳥が好きだから、TORINECOはどうですか?"ってコメントがあって、そこから紆余曲折あってTONERICOの名前が決まりました。

-ふたりの中でも大事に紡いできた物語があるし、そこにファンの人と一緒に作ってきた物語もあるんですね。いわゆる正統派のヴァイオリニストの方とはちょっと違うといいますか、独創的な道を歩んでるおふたりですが、そんなふたりだから作れる音楽を形にするというところで、TONERICOの音楽性や方向性はどうやって固めていったんですか?

Jill:このプロジェクトをやるにあたって根幹的な部分で思っているのが、やっぱりヴァイオリンの一般的なイメージって優雅だったり、お嬢様っぽいとか、とっつきにくさがあると思うので、まずは"ヴァイオリンってこんなにカッコ良くて面白い、大人しくてお淑やかなだけの楽器じゃないぞ"っていうのを世間に知っていただきたいということで。ヴァイオリンが入ってるポップスにしても、もうちょっとポップ寄りのものとか聴きやすいイージー・リスニング系のものとか、最大公約数を狙った音楽が多いかもしれないんですけど、私はメタルのバンドをやってて、沙織さんもインストの激しくてカッコいい音楽をやっていて、そんな私たちにしかできない新しい音楽を作れたらいいなと思ったし。衣装もゴシック・ロリィタと言われるものなんですけど、そこから感じられる耽美で優雅だけど、激しい世界観が構築された音楽をやりたいねってことで考えました。

星野:お互いにそういった世界観やゴシックなものが好きなので、話し合うまでもないという感じでした。衣装に音楽が寄る、といったらおかしい言い方かもしれないですけど、こういう世界観が作りたいなら音楽もそちらに寄るだろう、みたいな相互作用で構築された部分もあるかもしれないですね。それも誰かに言われたんじゃなくて、自分たちが本当に好きで自発的にやっていることですし。またふたりの背格好がわりと似てるのでドール感を出しやすいみたいなところもあって、ゴシックなお衣装を選ぶ選択肢も広がっています。ゴシック・ロリィタのお衣装はお揃いで着ることでヴィジュアル的破壊力も増すんで、そういったところも面白いなと思って。

Jill:ゴシック・ロリィタの世界で"双子ロリィタ"という概念があって。女の子ふたりで同じお洋服を着るとか、色違いを着るというのをこのふたりでやったら面白いなというのもありまして......って今は言語化してますけど、我々の間では言うまでもなく共有してるという感じで。今初めて言葉にして、"私、そんなこと考えてたんだ"って驚いてます(笑)。

-言わずもがなで共有できてたんですね。サウンド面でのアンサンブルやコンビネーションみたいなところも、言葉にするまでもなく音で共有してという感じだったんですか?

星野:録音の順番としては、私が録ったものにJillさんのヴァイオリンをつけていただく形だったんですけど、全部新曲なのでボーイングとかも別に決めていたわけじゃなかったんです。Jillさんが私の音を聴いて、それを読み解いて合わせてくれるというやり方でやっていたので、すごく大変だったと思いますが、結果としてふたりの音がすごくきれいに混ざり合っていながらもお互いのキャラクターがよくわかる作りになったと思います。

Jill:今回、いろんな作家さんに作っていただいていまして、主に沙織さんが作家さんと連絡を取り合って曲のイメージを伝えて、いただいたデモにヴァイオリンをそれぞれ入れて、プラスでギターとかを入れていくというやり方だったんですけど、沙織さんが演奏してくれた音のニュアンスを汲み取りながらそこに合わせていく部分もあれば、"私はこう弾くよ"って対比の面白い部分が出せてたりして。私が録音する時には沙織さん本人はその場には不在なんですけど、音と対話する感じで作り進めていってすごく面白かったですし、我々ふたりの物語があったからこそ作り上げられた部分はすごくありました。