FEATURE
MY FAVORITE HIGHWAY
2011.01.12UPDATE
2011年01月号掲載
Writer 大薮 未来子
「厳しさの中には美しさがあり、美しさの中には優しさがある」アメリカはヴァージニア州出身の4人組ポップ・ロック・バンドMY FAVORITE HIGHWAY(以下MFH)のデビュー・アルバム『How To Call A Bluff』を耳にし、バンドが軌道へ乗るまでの資料に目を通した時、私は真っ先にこの言葉を思い浮かべた。かつて、牧師の父から歌とギターを聴かされて育ったDavid Cook(Vo&Piano)を中心としたバンドMFHは、2009年5月にVirgin Recordsと契約し、メジャー・デビュー・アルバムをリリースするまでに、挫折と向き合い我慢の連続を重ねた辛い下積み時代があった。その時をDavidはこう述べている。
「あるツアーで、エリー湖近辺の田舎町でライヴをやったんだ。人がほとんど住んでなさそうな町で、とにかく寂れていて怪しい雰囲気だった。結局客は12人来て、会場もギャラを払えない状態。プロモーターが自分の弟に来させて、自腹で僕らに100ドル払ってくれた。本当に惨めで情けない気持ちだった。もう4年間も活動していたのに、未だにツアーのワゴン車の後ろで晩ご飯代わりにピーナッツ・バターを食っているような生活をしていた。本当にもう諦める寸前だったよ」
ロック・パンク・エモ・スクリーモ…様々なジャンルが錯綜し、鬩ぎ犇めき合う音楽シーン。エモというジャンルが90年代に形成されTHE GET UP KIDSやJIMMY EAT WORLDなど数多くのスターが誕生し、伝説を築きあげていく。空に瞬く1億の星の如く、NO.1を夢見て新たなるバンドが無数に結成される中、MFHに眠る音楽性の根底とはいったい何であったのだろうか。飛びぬけてキャッチーでも、特別上手い演奏という訳でもない。それはたった1つ、厳しさの中に生まれたストイックな美しさを彼らが身に纏っていたという事実に違いない。胸がキュンとする美メロ、切なく囁く甘い美声。エモといえば“これ”というほど似たようなバンドが多い中で、不思議と彼らの音色は聴く者をハッとさせ、琴線に触れるメロディを奏でるのだ。MFHが抱える音楽への揺ぎ無い信念こそが、彼らの紡ぎだすサウンドなのだろう。
紆余曲折の日々は、彼らのアーティストとしての創造力を貪欲に煽り、バンドはその悩みと不満を新曲作りにぶつけた。作曲を手掛けるDavidはフックに富んだパワー・ポップ・チューンを次から次へと形にして、歌詞には自身の胸の内を露わに注ぎ込んだ。
自分の進むべき道を見つける努力とフラストレーションをテーマにしたTrack.4「Getaway Car」や、日常生活の不満とそこから脱却したい気持ちを歌ったTrack.1「Simple Life」、待っているだけでは何も起こらないと訴えかけ、何としても自分で成功を掴む強い野望を綴ったTrack.8「What Are You Waiting For?」など、歌詞はどれをとってもメッセージ性が強く、Davidの感傷的なヴォーカルと高揚感溢れるメロディにPat Jenkins(Gt)の絶妙なギターが絡み、Will Cook(Ba&Vo)とBobby Morgenthaler(Dr)のリズム隊のアンサンブルは完璧な物へと完成させていった。
そして、2008年11月。バンド4年目にして初となるメジャーとの契約が決定し、Virgin Recordsから2009年5月に『How To Call A Bluff』を再リリースしたのだったが…彼らのデビュー・アルバムはラスト・アルバムとなってしまった。今年3月、Bobby(Dr)がバンドを脱退。しばらくは3人で継続を模索するも、9月に活動休止を決意し、正式にバンドの歴史に幕を下ろす結果を迎えたのだ。
以下は彼らの掲載された、バンドの旅の終焉を告げるポジティヴなオフィシャル・コメントの抜粋である。
「ちょっとばかり魂の探求を行い、僕達の人生におけるMY FAVORITE HIGHWAYの章を閉じることに全員が合意した。ステージで演奏するバンドのメンバーではなくても、僕達の曲の歌詞の一行一行を歌ってくれたみんなは物語の一部であり、このバンドの一部なんだ。人はやって来て去ってはいき、物語だけが永遠に残る。未来に何があるのか楽しみでしょうがない。僕たちのストーリーの一部になってくれてどうもありがとう」
今から、これからという時になぜ解散なのか。彼らにしか奏でられないメロディがあるにも拘わらず何故なのか…。しかし、だからこそ聴いて欲しい。美しいメロディの奥底に広がる優しさに触れ、彼らのまっすぐなメッセージを直に感じていただきたい。
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