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INTERVIEW

てのひらえる

2021.09.02UPDATE

2021年08月号掲載

てのひらえる

Interviewer:吉羽 さおり

バンドとアイドルの垣根を壊すと言われていることも多いけれど、アイドルはアイドルとして育ってきた文化があることも、もっと知って楽しんでいただきたい


-3rdシングルの「new fable」は、ポジティヴであり、何かに向かっていく際の繊細に揺れ動く感情が描かれていますね。

「new fable」は私の曲の中でも、いい意味で一番私らしくない曲だなと思っているんです。今までの私の歌詞の作り方としては、世の中や自分の中にも闇があるけど、周りの人たちからの助けを貰いながら光を見つけていくという流れの歌詞が多かったんですけど。「new fable」の歌詞は爽やかで明るい歌詞で、私らしくない曲だからこそ、新しい私を見せられたことがすごく嬉しかったし、今後、私自身がいろんな方向に歩いていけるような前向きな曲だなと思ってます。

-先ほど発見が多いとおっしゃってましたが、この曲を歌ってみて気づいたことはありましたか。

とにかく、私はマイクを全然信用できない人で(笑)。私の声聞こえてるかな? とか、歌っていると段々と爆音とかでわけわかんなくなっちゃう感じで、勢いとかで押しちゃうクセがあったんです。「new fable」は抑えた表現のヴォーカルになっていて、自分の声の使い方の点で気づきが多かったですね。囁くようにとか、語り掛けるように歌ってみるのは初めてだったので。

-抑えた表現だからこそ、歌詞をより深く読み解いて、どう表現するかと考える時間が増えそうですね。

そうですね。いろんなアーティストの歌詞を読んだり考察したりすることはもともと好きだったんですけど、よりここにはどんな意味が込められているんだろうとか、歌詞を読み込む時間はすごく多かったですね。この『new fable』は3作目なんですが、それも結構早いスパンでのリリースで。本当に目まぐるしく新しいことに挑戦をさせてもらっていて、ずっとずっとやりたいなと思っていた夢が、急に舞い降りてきたっていう、そういう感激がある反面、不安もあったんです。「new fable」で描かれる、夢に向かって歩いていくし、新しいことを始めるけど、でもずっとみんなと手を繋いでいたいという気持ちは、今の私に重なるものがあって。gouache.さんは私のことをちゃんと見てくれているんだな、知ってくれているんだなというのをすごく感じましたね。自分自身のエール・ソングにもなっているんです。

-ポジティヴに進んでいくのはもちろんですが、"今日の夜は少し眠ろう/夢を見て心のゼンマイを捲く"と突っ走るばかりでない歌詞がいいなと思います。

弱い部分とかもネガティヴに書くんじゃなくて、音の中に滑り込ませるように、スッと入ってくる歌詞になっているのが、すごく印象的だなって思います。

-こうしてソロでは楽曲提供をしてもらいながら、並行してAmyでは自分で歌詞を書いていたりするんですよね。歌詞を書くときは、自分のどういう部分、どんな感情が引き出されますか。

怒りが多いですかね(笑)。フラストレーションや、言いたくても言えないこと、これは言ってもいいだろうけど普段は自分の中ではポリシーとして言わないでおこうと思うこととかがあったりするんですけど。それを音に乗せて歌っていることがすごく多いので。一番はグチというか(笑)。フラストレーションを歌詞に乗せることが多いですかね。

-その怒りっていうのは、他者や何かに対してなのか、それとも自分の内側のことなのかっていうのは、どうですか。

どちらもありますね。ニュースを見てとか世間に対して思うこともすごくありますし、お仕事をしていると私に合わないなという人もいたりするんですけど、私は絶対ああはならないぞとか(笑)。逆に、私に期待してくださる方がいるなかで、自分の未熟さや、なんであのときこう言えなかったんだろう、こういう言葉を掛けてあげられなかったんだろうっていう気持ちもあったりするので。自分の気持ちもそうだし、周りから受ける環境も影響されていたりしますね。

-ソロにバンドにといろんな活動を通して、内からも外からも自分を鍛え上げている感じがしますね(笑)。

(笑)逆に家でじっとしてたら、暗い感情のほうがもっともっと溜まっていっちゃうので。だからたぶん、3つもわらじを履いていろんなところで活動させてもらっているんだろうなって思ってます。何かしてないと気が済まないみたいな。

-その3つのわらじは、うまく切り替えられている感じはありますか。

そうですね、3つとも見せる顔が全部違うので、うまく切り替えられたりするんですけど、あとは形から入るので。メイクとかも変えたりしているんです。ソロのときは今日のような赤いメイクをしているんですけど、82回目の終身刑のときは猫耳をつけてパフォーマンスをしていて、Amyではもっとボーイッシュな感じ、ちょっと目の周りを黒くしてみたりとか、見た目から変えていたりもしますね。

-シングル3作が立て続けにリリースとなりましたが、この先のソロ活動としてはどう進んでいきたいと思っていますか。

今はきっとカテゴライズとしては地下アイドル、インディーズ・アイドルという存在だと思うんですけど。今はBiSHさんやPassCodeさんとか、かっこいいアイドルが増えているなかで、ソロでかっこいいアイドルというのはあまり見かけないなと思っていて。ソロ・シンガーじゃなくて、歌もダンスもやれるソロ・アイドルとしてこういうかっこいい存在もいるんだぞというのをもっと世の中の人に知ってもらいたいなと考えています。バンドとアイドルの垣根を壊すというのは、わりと言われている方も多いと思うんですけど、私としては、アイドルはアイドルとしてしっかり楽しんでもらえて、バンドが好きだけども、アイドルを知って、アイドルってこんな楽しみ方ができるんだって感じてほしいんです。バンドはバンドでカテゴリーがしっかりあるので、そっちを守っていきたい。まぜこぜになることも楽しいと思うんですけど、それぞれのアイドルはアイドルとして育ってきた文化があると思うので、そういうことも世間の人にもっと知って、楽しんでいただきたい気持ちがありますね。

-今は垣根を壊していくということのほうが主流のなかで、それぞれの文化を守り育てていく、棲み分けていくというのは今だからこそ面白いです。

そうですね。私も昔は、バンドだからとかアイドルだからというカテゴリーされて分けられている感じがあったのが嫌だったから、垣根をぶっ壊してアイドルもバンドも関係ないぜって言ってはいたんですけど。活動をしていくなかで、心境の変化がすごくあって。バンドが好きな人はバンドの生音やパフォーマンスが好きで観に行っている人がいて、アイドルはアイドルでダンスやパフォーマンスが好きで行っている人がたくさんいると思うんです。そこで垣根をぶっ壊してまぜこぜにしちゃうよりも、アイドルはこういうノリ方なんだ、じゃあ一緒にやってみようっていうほうが、私はそれぞれの文化としてしっかり楽しめるんじゃないかなっていう。今はそういう心境の変化に行き着いている感じです。

-そういうことではバンドもソロもやっているのは、どちらにも振り切れることができそうですね。今ソロとしては、ライヴはどんな形でやっているんですか。

音源を流して、ひとりでマイクで歌ってます。特別なワンマン・ライヴとか、少しの曲だけバンド・セットでライヴをやることもあったんですけど、やっぱりソロとしてひとりでステージに立って戦うという姿勢を見せていきたいなっていうのはありますね。

-背負う感覚は、ソロとバンドとで違いはありますか。

そうですね。でも、私はソロのほうが、どちらかというと気が楽なんです。Amyの活動を始めてライヴはまだ数回で、私がヴォーカルとして立つバンドというのが初めてなので、まだ慣れていないのもあると思うんですけど。ソロだったらもし自分が失敗したり何かがあったりしてもすべて自分の責任として終われるというのがあるんですけど、バンドでは他のメンバーに迷惑をかけてしまうとか、たくさんの人が関わってくれているなかで私が失敗したら......みたいなことが多いので。私自身ではソロのほうが、今は気が楽です(笑)。でも、ファンの方に助けてもらったなという言葉があるんです。"バンドは後ろにみんながついていてくれるから大丈夫なんだよ"って。メンバーにもそう言ってもらえたし、ファンの方にもバンドってそういうところがいいんだよと教えてもらえたので、その言葉を聞いてからは、バンドのほうも少し気が楽にはなりました。

-現在TikTokフォロワー数が12万人超えという状況で、今回の「new fable」の歌詞にもさりげなく"TikTok"というフレーズが入っていたりもしますが。

そうなんです。これは、gouache.さんがもともと入れてくれていたもので、そういうところもさすがだなと思いました。

-SNSでの活動も積極的にやっていこうという感じですか。

そうですね。前回の2ndシングル『ダランベール』(2021年6月リリース)ではTikTokの私が今まで撮った動画を使ってティーザーを作ったりしていて、そういう時代にも合った流れは積極的に作っていきたいなと思います。

-SNSでは同世代や幅広い層に見てもらえる機会がありますね。活動とどう繋げていきたいと考えていますか。

TikTokで見てくれている方の中には、ライヴハウスに足を踏み入れる勇気が出ない人がたくさんいると思うんです。私自身が今まで歌ってきた楽曲自体ハードな感じの音が多かったので、ちょっと怖いなとか、なかなかライヴハウスには行きづらいという子たちがいるのは、私も気になっていて。今回の「new fable」は私の曲の中でもなかったタイプのサウンドなので、これまでライヴハウスに行けなかったような方にも受け入れてもらいやすい曲じゃないかなって感じています。ライヴハウスに遊びにきてもらう第一歩として、「new fable」をたくさんの人に知ってもらえたらと思いますね。