FEATURE
KINGDOM OF SORROW
2010.09.07UPDATE
2010年09月号掲載
Writer 米沢 彰
言わずと知れたハードコアの雄、HATEBREEDのヴォーカルJameyと、CROWBAR、 DOWNのギタリストKirkによる超重量級プロジェクトKINGDOM OF SORROW。十年来の友人でもあるこの二人が生み出すサウンドはまさに超重量級と呼ぶに相応しい、重く響くハードコア・メタルサウンドだ。
KINGDOM OF SORROWは、2006年にROADRUNNER RECORDSからリリースされたオムニバス、『MTV2 Headbanger's Ball: The Revenge』で初めてその姿を現した。収録された音源は一曲のみではあったが、HATEBREEDとはまた違った、CROWBAR, DOWNとも異なる方向性が大きな話題を呼んだのだった。
二人のそもそもの出会いは、90年代初期にまで遡るという…。十年近くも前にライヴ会場で出会って意気投合した二人が、ハードコアの重鎮Zeussプロデュースの下、デビュー・アルバム『Kingdom of Sorrow』をリリースしたのが2008年。初の音源から2年の歳月を経て、多くのハードコア・ファンが待ち望んでいた音源がリリースされるに至ったのだが、共に自らのバンドを複数抱える二人の困難は想像を絶するものだっただろう。ともあれ、デビュー・アルバムとなった前作をリリースするに至った後は、『ありそうでなかった組み合わせ』という触れ込みで二人の組み合わせが生み出すサウンドが注目を集め、遂にはOZZFESTやROCKSTAR MAYHEM TOURへと参戦するまでになった。ここまでのサクセ・スストーリーを歩むことになったのは、この二人のネーム・バリューだけでは到底足りるはずがない。この『ありえそうでなかった組み合わせ』が、単純な足し算のような、HATEBREED+(CROWBAR、DOWN)というだけの存在ではないということに他ならないのだ。
その彼らが、更に2年の時を経て、再び新しい作品を世に産み落とした。タイトルは『Behind the Blackest Tears』。前作のZeussプロデュースではなく、Jamey自身によるプロデュースとなった今作にあっても、やはりひたすらヘヴィな方向性を突き詰めた作品となった。全編を通して、基本的にスロー気味のミディアム・テンポの楽曲が並び、基本的に一小節当たりの音の数は少ない。最近のデスコアやメタルコアのブラストビートと比べるともしかしたら1/10ぐらいのドラムの手数かもしれない。それぐらい音の数が少ない。手数が少ない分重く響くのか、ドラムのサウンドが異様に重く感じられる。あまり速くないツーバスがまるで大気を震わす地鳴りのように重く、響く。その上で和音・単音、長音・短音を多彩に操るKirkのギターが重く鳴り、KINGDOM OF SORROWのハードコア・サウンドを組み立てていく。仕上げに、HATEBREEDのそれとはまた異なった、感情や内面を剥き出しにしたような表情のある、まさに咆哮というべきJameyのヴォーカルに、これぞハードコアと言わんばかりのKirkの重く響くヴォーカルが加わると、KINGDOW OF SORROWのサウンドは一挙にエモーショナルなオーラを纏い始める。超重量級というフレーズが先行しがちだが、彼らはヘヴィネスの先に間違いなく複雑で熱いマグマのような感情を込めている。曲を聴けば聴くほどに、重さを追求しているのではなく重い音を通してさまざまな感情を表現しようとしているように感じられてくるのだ。この辺りが二人のケミストリーの集大成であり、彼ら自身のバンドでは実現していない部分なのではないだろうか?
友情や出会いを大事にするハードコアの文化をリードし、育ててきた第一人者でもある彼ら二人の出会いがこうして結実したことは非常に興味深く、また、素晴らしいことであると思う。一つのプロジェクトも、二枚のフル音源にまで結実すれば既にそれはプロジェクトの域を超えて、シーンでの存在感が非常に重要なものになってくる。前作のリリース時同様、今回もOZZFESTでのツアーが決定している彼ら。ここまでの大きさになったのだから、次は来日を期待したい、というのは欲張りすぎだろうか。
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