ポーランド出身、東欧メタル・シーンのすごさを世界に知らしめ、今もなお、精力的な活動を続けるVADERが今年9月に再来日を果たす。数多くのバンドに影響を与え、エクストリーム・メタル界を現在進行形で牽引する存在と言える彼らの始まりは、今から30年以上も前、1983年のことで、中心人物にして唯一のオリジナル・メンバー Piotr"Peter"Wiwczarek（Vo/Gt）によって結成される。バンド名は言うまでもなく、映画"スター・ウォーズ"の登場人物 ダース・ベイダーから拝借したものだ。
数本のデモ音源を発表し、名声を高めたバンドは、イギリスの名門レーベル、Earache Recordsと契約を結び、『The Ultimate Incantation』（1992年リリースの1stアルバム）でデビューを果たす。数年はツアーを重ねつつ、ライヴ・アルバムやEPリリースなどを経て、レーベルを移籍してリリースされたのが、2ndアルバム『De Profundis』（1995年リリース）である。名盤の誉れ高い作品であり、不穏なトレモロ、スラッシーなリフの嵐、低音域を強調したバスドラが異様な存在感を放ち、壮絶なブラスト・ビートで攻めたてるドラムは、今聴いても凄まじい破壊力だ。いわゆるデス・ヴォイスというよりは地声に近い、吐き捨てるようなヴォーカルも、現代的な重さを強調したグロウルとはまた違った魅力があり、若いファンにとっては新鮮なものがあるかもしれない。

VADERを聴くならまずはこのアルバムから手にしてみてはどうだろうか。1998年には初来日も実現しており、その模様は"Live In Japan"の名前で、ライヴ・アルバムとして同年にリリースされている。VADERのアルバムは基本的にすべて国内盤がリリースされていることもあり、バンドと日本のファンとの良好な関係が窺えるというものだろう。話が逸れたが、同年には、アメリカのメタル～ハードコア・シーンを代表する名門レーベル、Metal Blade Recordsと契約を結び、精力的にライヴ・ツアーを敢行。2000年には、通算4枚目となるアルバム『Litany』を発表。のっけから耳に飛び込んでくるバスドラの強烈な音圧は、もはやギターをも凌駕しており、人間業を超えたドラム・プレイの数々に、言葉を失うこと必至である。卓越した演奏技術に裏打ちされたバンド・アンサンブルも素晴らしく、極端なミキシングに賛否両論あれど、デスメタル史上、重要な作品としてその名を刻んだことは間違いないだろう。

2000年以降も休むことなく前進し続けていたバンドに悲劇が襲ったのが2005年。前年に健康上の問題で脱退していたKrzysztof"Docent"Raczkowski（Dr）が逝去した。長い間バンドを支え、VADERの音楽性を特徴づけていた超人的なドラマーの死は、バンドにとっても、ヘヴィ・メタル業界全体においても、大きな損失となった。もともと、Piotr"Peter"Wiwczarek以外のメンバーは流動的だったバンドではあるが、2008年には彼を除く他のメンバー全員が脱退。長いキャリアを持ったバンドであるが故の多くの困難を乗り越えて、2011年以降はメンバーも安定し、再来日も果たしている。2014年には、通算10枚目となるアルバム『Tibi Et Igni』をリリースし、四度目の来日公演も敢行。
1990年生まれ（！）のJames Stewart（Dr）といった若いプレイヤーによるフレッシュな要素を取り入れながらも、核となる頑固一徹な音楽性は健在であるからこそ、VADERが生み出す音には、疑いようのない誠実さが、説得力が刻まれているのである。今回の来日公演では、今年11月リリース予定の新作からの楽曲が披露されることも期待できるだろう。重鎮が放つ圧倒的な音の塊を、ぜひ生で体感してみてほしい。

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